前回の「【オランダで妊娠】10週でようやく初エコー、胎嚢確認」の続きです。
今回は、オランダの医療制度との壁を感じた話についてお話しします。
ちびいきの持病、甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)について
まずは、私の甲状腺の持病についてお話しします。
【甲状腺機能低下症/橋本病】英語では”Hypothyroidism"と言います。"Hashimoto"と言っても通じることがあります。
年に1回、血液検査を受けて、TSH、T3、F4という3つのホルモン数値を調べます。
これまで20年以上、経過観察だけで済んでいます。
しかし、妊娠中だけは別でした。
胎児が成長するために、甲状腺ホルモンを多く必要とするため、TSHの値を2.5以下にしておくことが良いとされています。日本での第一子妊娠時は、伊藤病院に通院しホルモン値の変化をモニターしながら、妊娠5週目から産後1〜2ヶ月まで「チラーヂンS」を投薬していました。
病気の相談はホームドクターへ
さて、甲状腺の件については、ホームドクターに連絡せねばなりませんでした。
「アポをとって、血液検査をして、結果が出て、投薬を開始する」というプロセスに、その時点から少なくとも2週間かかることは覚悟しておきました。
妊娠初期は、胎児に甲状腺ホルモンが通常以上に必要で、脳や神経系の発育に関わると言われています。そして、甲状腺ホルモンの不足により流産早産のリスクも高まる、とされています。
助産院とのアポまでの間、前回の日本での妊娠のことを回想していた時に、投薬していたことを思い出してからはとても焦りました。
電話で「なるべく早く投薬を開始したい」と助産院に伝えましたが、甲状腺ホルモンの過不足についてそこまで重要視されてない印象を受けました。
助産師は、薬を処方できる立場にないので、ホームドクターに判断を仰いでください、と簡単な返事です。
投薬に納得してくれないオランダのホームドクター
妊娠8週で受けることのできた血液検査の結果を確認すると、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の正常値は4.0までとオランダでは定めているのですが、4.1でした。
ちなみに、妊娠中に推奨されるTSHの値は2.5以下です。この値からは大きく外れるので、当然のことながら投薬を開始できると思っていました。
ところが、ホームドクターは首を縦に振りません。
「妊娠中以外に投薬したことがないという君のメディカルヒストリーを見る限り、必要ない」
と、1点張り。
私 「でも、正常値の4.0よりも少しですが上の値です。まだ妊娠初期なので、これから上がっていく可能性もあります」
Dr. 「たった0.1上なだけなんだよ。ほんのわずか。」
私 「それでは基準値なんて設けている意味がなくなりませんか。」
と、押し問答。
日本の時の血液検査の結果をずらりと並べて、赤ちゃんの発育が心配なんだと訴えますが、もう全然ダメです。
無理だと悟った私は、渋々その場をあとにしました。
こうもオランダと日本での医療の違いがあることに愕然としました。私は発展途上国に来たわけではないのです。
私に投薬が必要という考えをもつ人はこの国にはいないのか?!少し遠方ですが、日本人のお医者さんに会いにいくことも検討しました。
助産院の変更
そして、甲状腺について何も指摘してこない助産院にも一抹の不安を覚えたので、助産院も新たに探してみることにしました。
まずアポをとっていたのは、独立した助産院だったのですが、甲状腺と産科の専門医に会えることを期待して、病院付属の助産院に電話してみました。前回の出産時に出血も多かったので、病院でのお産も検討すると、結果的にそのほうが賢明でした。
必死にホームドクターの意見も含めて電話で事情を説明すると、
「甲状腺の持病を持つ人は最初に投薬してきちんと気をつけなくてはいけないわ!」
とわかってくれたではありませんか!!!

やっと甲状腺と投薬についての必要性に賛同してくれる人に会えました。
すでにこの時点で9週。最初の助産院とのアポを急遽キャンセルし、病院付属の助産院に変更しました。そして、妊娠10週時のアポをとることができました。
ホームドクターの説得のために再訪
その助産院とのアポ前日。やはりホームドクターの意見に納得のいかなかった私は、オランダ人の友人を連れて再訪。
私とは英語でやりとりをしているので、もしかしたらどこかで誤解が起きているのかもしれない、と思ったからです。
オランダ語同士で話してもらえば、誤解が解けて、わかってくれるかもしれないとほんのわずかな期待をかけていました。
そして、自分なりに調べた、アメリカ、イギリス、ドイツなどの甲状腺協会が発表する文献、つまり、
「妊娠中TSHを2.5以下に維持することが望ましい」
と書かれたものをネットで探しまくり、プリントアウトしたものを手持ちしました。
淡い期待ははかなく散りました。
プリントアウトをみることもなく、全く聞く耳を持ってくれず、とにかく大丈夫なんだ、と。
「ここはオランダで、他の国と同一に考えないで欲しい。その指標は知っているけれど、大丈夫なんだからあまり心配しないでいんだよ。
流産の確率を知っているかい?
どんなに心配しても、なるようにしかならないんです。
そして(これからのアドバイスとして)、オランダの助産師は国家資格を持った優秀な人材だから彼らの意見に背かないようにね。」
力が抜ける思いでした。
無責任なのではと感じると同時に、その笑顔にやや安堵したことも覚えています。

この時10週。
胎児が一番甲状腺ホルモンを必要とする妊娠初期が12週まで。
たくさんの不安だけが押し寄せる時期でした。
まとめ
後々の話ですが、オランダ人の友人にこの話をした際。
彼女は一人目をアメリカで出産、二人目をオランダで出産したそうです。
持病のためにアメリカでは妊娠中にもらえていた薬が、オランダではどう説得してももらえなかった、と経験談を話してくれました。
安楽死を認める国、オランダ。妊娠出産も、病になった時にも、できるだけ医療介入せずに自然に、自然に。運命には抗えないといったやり方を直視させられる出来事でした。